ドイツゲーム大賞 初心者への招待状

毎年6月、ドイツゲーム大賞が発表される。年に一度、審査員が部屋の密室に缶詰状態になってその年に出たゲームをひたすらやりまくって、その年のゲームを決めるのだ。

ところがこの賞、毎年のようにちょこちょことブーイングされる。これは違うだろうと。これはマニアの楽しみのひとつなのだが、果たしてゲーム大賞の実力は如何に? と問われたら。

ゲーム大賞の審査ポイントのひとつに、一般の人に受け入れられるかという項目がある。これは元々ゲーム大賞が、ゲームをするプレイヤーの人数を増やすという裾野を広げるという意味があるからだ。

2年ほど前にTAMをこの世界にはめた時(前々からゲームはやってたのだが、本人がゲームを買い始めた時)、最も気になるゲームのひとつにヴィラパレッティがあった。当時ヴィラパレッティはゲーム大賞のブームから一段落しており、入荷待ちの状態であった。だからメビウスに問い合わせて購入したと聞いた時は、「へえ」と思ったものだ。

翌年、アルハンブラが選ばれた。アルハンブラは、所詮リメイクだの、多人数ソロプレイだのと、あちこちのサイトで叩かれた。しかしやってみると意外と(大賞作品に失礼だが)おもろかったのだ。一緒にやっていたTAMはすぐにこれを購入した。かくしてアルハンブラは初心者であったTAM嫁の最もお気に入りとなった。

そして去年、チケットトゥライドが選ばれた。各地で毎年のようにブーイングが起こる。審査員は何をやってるのかと。この年の審査員は、ごろりと模様替えしてたにも関わらずである。またボードゲーム評価掲示板でも厳しい点数がいくつか見られる。

私のサイトは何度も書いてるように初心者の方がよく来られるようだ。(これにすっかり気づかずプエルトリコを万人受けするなどと書いてしまうミスを犯してしまったが)掲示板にチケットトゥライドは面白いですよといくつかの書き込みをして頂いた。

また別の友人は、最近ゲームをやり始めている友人からチケットトゥライドを薦められたと言っていた。またこの前サンクトペテルブルクが面白かったのであればアルハンブラも気に入る筈という事でやらせてあげると、果たしてメビウスに問い合わせてる模様なのだ。

少なくとも私の周りをみると、審査員は無駄に部屋に閉じこもっているようではなさそうである。ここで驚くのは、審査員はゲーム熟練者であるという事だ。熟練者はあちこちのサイトを見てると分かるように初心者向けのゲームに面白味を感じにくいのだ。ここは「ほう」と感心してしまう。

本場のドイツでもゲームの売れ行きは5000個ほど、売れて1万個である。ところがゲーム大賞に輝くと途端に売れ行きが倍増し、30万個とかそれこそ100万個とか売れてしまうのである。ここらへんは本とそっくりである。そしてまた一時的な品薄となりなかなか入手出来なくなる。メーカーも慌てて増産体制を整えるのだ。

この事実から、ゲーム大賞はしっかりとその目的を達せられているといえる。もしへぼいゲームに賞が与えられると、賞の権威は失墜して売れ行きは伸びないだろうからだ。

私の友人に某大手ゲームメーカーの営業をやっている奴がいるが、某雑誌のゲーム評価を買収しているといっていた。お金を払わず仲が悪くなった時期があり、そのときの評価は糞味噌であったという。こういう話を聞くとドイツゲーム大賞の揺るぎない理念に溜息さえこぼれる。

2chとかで初心者と楽しめるゲームはなんですか? とよく書かれているが、その返答には少々マニアックな意見が多いように思う。たくさんやっているから質問に答える事も出来るのだが、そういう人はこぞってヘビーゲーマーであるという矛盾がある。ボードゲームはテレビゲームと違い、非常に好みが表れるものだ。ハードサスペンスが好きな人が、ライトノベルを好きになりにくいのと同じである。

初心者をはめる為のゲームは? と聞かれたら「ドイツゲーム大賞のゲームを買え」というのをジョーコデルモンドの正式回答とする。私の評価や他のサイトに惑わされる事なく、そうして貰いたい。HPを持ってる人はずばりヘビーゲーマーなんだから。別に丸投げやめんどくさいという訳じゃなく、それくらいゲーム大賞はきちんと選ばれてると言いたい訳だ。(実際のところ、これがいいとかあれがいいと奨めるのは楽しい時間なのだがw)

またよくある間違いとして、UNOや黒ヒゲ危機一髪など、有名簡単のゲームを使うってのも奨められない。これはただのカードゲームやアクションゲームであり、「おもろかった」の一言で片づけられ次に続かない。ゲームとして深みがないのだ。ゲームをやって欲しいあまり、黒ヒゲ危機一髪やUNOを持ち出すような媚びるような行為は辞めて貰いたい。この手のゲームからドイツゲームに向かった人ってのはとんと聞かない。その場だけで「楽しかった、これがゲームでしょ?」という既成の思い込みを覆す事なんて出来ない。ここを読んでいる人は現在主流のドイツゲームの何かひとつをやってみて、「所詮、ゲームなんてUNOや黒ヒゲや人生ゲームくらいなもんでしょ」という考えを改めるに至った人がほとんどだろう。次に続く深みがあるのがドイツのボードゲームなのである。

ゲーム大賞のゲームを1つ買ってみて、それをやりにやりまくって、「別のんないかな?」と思った時点で新しいゲームを買っていくってのが一番良いように思う。実際、ゲーム大賞のゲームは大人が夢中になって何度も使用に耐えうる面白さを持っている。ゲームリパブリックの岡本社長がカタンの開拓者をやりにやりまくり、とうとうカタン日本語版を発売するに至った経緯は有名である。あの人いまだにカタンやってるとかw

フリークはよく受賞作についてこう述べる。「何かワンパンチが足りない」と。しかしこのワンパンチの足りなさが初心者にゲーム本来の楽しさを味あわせてくれるのだ。複雑でややこしいルールに踊らされるのではなく、初心者でもデザイナーが最も楽しんで欲しい部分を味わい尽くす事が出来ると言えばいいだろうか。逆に言えば面白いんだけど、ワンパンチ足りないなあと感じだしたら、初心者を脱却した事になる。

※ 最近、大賞作品について再考察してみたが、何か足りずをつけるかどうか迷うレベルの作品が多い事に気づいた。そしてそれが初心者でも楽しめる素晴らしい秘密である事を知ったのだ。

去年、私の経済からみる予測を裏切って、アメリカのゲームメーカーであるデイズオブワンダーのチケットトゥライドに大賞が授与された。アカデミー賞がアメリカ資本の映画にのみ与えられると規定されているように、こういった外国のメーカーに賞を与えるという事はすさまじく勇気のいる事であり、ドイツゲーム大賞の本質を描いているように思う。つまりドイツゲーム大賞は名実共に世界ゲーム大賞となったのだ。考えてみればSpiel des Jahresは直訳すれば年のゲームであるので、ドイツなどどこにもついていないのだった。

アルハンブラ サンクトペテルブルク ヴィラパレッティ プエルトリコ

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