二つのアブストラクト

前からアブストラクト嫌いとして書いているが、嫌いというよりも、わざわざ他にテーマとして魅力的なゲームがあるのにアブストラクトをやる必要はないやろという気持ちが強い。アブストラクトなら完成度の高い将棋や囲碁やっとけやと。まあ、これを嫌いというのかもしれんけどさ。

しかし、わしがやってて楽しいアブストラクトもある。(やっぱり嫌いなのか)わしの思うにアブストラクトは二系統に分けられる。

ひとつは将棋やチェスに代表される、数学的思考能力を必要とするグループと、もうひとつは囲碁に代表される空間的思考能力を必要とするグループだ。

前者をマスアブストラクト、後者をイメージアブストラクトと勝手に命名してみる。

このふたつは使う脳が違う。マスアブストラクトは、一手の狂いが命取り、全てを精密に動かして勝利を求めるタイプで、羽生名人が強いのは公文式のおかげだとわしゃ思ってる。プログラマーなどはマスアブストラクトをやらせると好きだし、強い筈である。つまり主に左脳を使うゲームなのだ。

もうひとつのイメージアブストラクトは、空間をなんとなくイメージしつつ手を打っていく。途中、あっと驚くつながりが生まれるのがこれである。マスアブストラクトはあっという驚きはほとんどなく、全て自分の計算通りに動く筈である。主に右脳を使うゲームなのである。

ヒカルの碁を読んでいて、将棋が強いからといって囲碁が強いとは限らないというくだりがある。あれで、あ、そうなのか、と。この二つは使っている部分が違うと思った。

マスアブストラクトとイメージアブストラクトの判別は簡単だ。マスアブストラクトの駒は、移動させる事が出来る。イメージアブストラクトの駒は置いていくだけで(取り除く事はあっても)移動させる事は出来ない。

マスアブストラクトは、駒を移動させる事により、まったく関連性のない2つの効果が生まれる。以前置いていた駒がなくなる事で失われた効果と、移動した場所で生み出す新しい効果である。

イメージアブストラクトは、駒を置いた事による1つの効果しか生み出さない。盤面で新しくあっと驚くつながりがあったとしても全て繋がった一つの効果なのだ。キャンバスに絵を描いているような感じと思えばいいだろう。一旦書いた絵は基本的に消さずに新しい効果を生み出す何かになる。そこに驚きが隠されているのだ。

幼少の頃、お父んがやたらと将棋が強くて、散々な目にあった。チェスなどをやっていても、動かした後の事はよく考えるのだが、効果を失った方をおろそかにして、簡単にルークなどを失ったりする。そういう人は、マスアブストラクトではなく、イメージアブストラクトをやってみると意外に強いかも知れない。

ここまで書いてきて、わしの楽しめるアブストラクトはイメージタイプであると解って貰えると思う。思いっきり右脳型のわしには、数学的思考能力を必要とするアブストラクトは苦手極まりない。ドイツゲームでアブストラクトといえば、デュボンなどのギプフプロジェクトが有名だが、これって全部、マスアブストラクトなのである。

じゃ、イメージアブストラクトはないのか? と探せば、あったあった。アレックスランドルフの名作トゥイクストがまさにイメージアブストラクトなのだ。やってみると、やっぱり楽しいし、そこそこ強い。

数学的問題を右脳で空間的に処理出来るアインシュタインのようなスーパー右脳型ならいざ知らず、凡人の右脳型ではマスアブストラクトは駄目だ。逆に左脳型の人間が、空間能力を試されるイメージアブストラクトは歯がゆい思いをする事だろう。(ただしこれはアマチュアレベルの問題で、将棋もプロになると右脳型が多いらしい。感覚で盤面を捉える事が出来るくらいやりこんでいるからだと思われる。これは憶測だが、右脳型というのではなく右脳で将棋を打ってるという事だろう)そう考えると、ギプフプロジェクトなどは、マスアブストラクトに偏ってしまっているので、片手落ちなどと感じてしまうのはわしだけだろうか? もしギプフにイメージアブストラクトがあれば、わしゃそれだけは買うてもいいなと思う。

ギプフ(Gipf)

gioco del mondo